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 #031 澄み渡る日本海

  冬と夏で全く異なる顔を見せる日本海。「陰鬱」という表現がぴったりの冬の姿と対照的に、夏は澄んだ水が穏やかに打ち寄せ、底の岩場までが見通せる。そんな海がはるか沖まで続いている。

  本州西端、小串の海水浴場にて。もう山陰というよりは九州に近い場所だが、雰囲気はやはり日本海。真夏の炎天下、駅からタオルを頭に被ってここまで歩いてきた。思わずこの透き通った海に飛び込みたくなるが、あいにく海水浴の準備はしていないので、自重する。

 #032 昔ながらの客室

  「レトロ」と呼ぶには無機質で、かといって「古びた」というのも少し気が引ける。水島臨海鉄道で今も現役の旧式気動車。その内装は、恐らく当初と大きくは変わっていないのだろう。たいしてスピードは出さす、倉敷市街地の中をゆったりと進んでゆく。

  キハ20形とよばれるこのタイプの車両は、昭和30年代以降、ローカル路線の気動車普及に足跡を残した存在だ。どことなく窮屈そうな座席などは、その時代の規格によるのだろう。JRでは大半が姿を消したが、地方私鉄にいくらか残っている。このひと月ほど前には、「赤穂線40周年記念列車」としてJR路線を走った。「古さ」を買われての活躍である。

 #033 勝ち誇る橋脚

  鉄道で旅をしていると、この手の光景には嫌と言うほど出くわす。地形に沿って遠慮がちに進む線路の頭上を、高速道路の高架橋がひとまたぎにしてゆく。突き立つ橋脚が勝ち誇ったようにこちらを見下ろしているように見えるのは、列車好きゆえの僻みからだろうか。

  今乗っているのは可部線。可部から太田川に沿って山間へと入ってゆく。民家の裏をかすめ、川が迫れば山際へ押しやられる。対して高速道路は、山も谷もお構いなしに突き抜けてゆく。

 #034 SLの叫びも虚し三段峡

  広島から川に沿って進んできた可部線は、ここ三段峡駅で突如終点を迎えた。正面には山が立ちふさがり、どんづまりに見えるが、かつてはここから延伸し、島根県の浜田に至る計画もあったという。

  可部から先は山間を進む長大ローカル線であり、利用が振るわず廃止対象となった。沿線では反対運動が行われており、「のってよ、かべせん」といったスローガンを掲げた横断幕やのぼりが数多く見受けられた。ただ、笑顔のイラストで「残そう!」と言われても、いまいち緊迫感が伝わってこない。

  そんななか、この駅前に展示されているSLには、「JR可部線の存続を願う!」と、赤い文字で大書きされた横断幕が。時代錯誤なスタイルかもしれないが、無骨なSLならではの訴えのようにも感じられた。しかしもはや趨勢は決しており、翌月に廃止が正式決定、SLの叫びは谷間に虚しく消えた。

  廃線後この駅は取り壊されたが、SLは広島近郊のショッピングモールに引き取られて、展示されているという。

 #035 年明けの朝、馴染みの顔との別れ

  「ムーンライトえちご」は、青春18きっぷで長距離の旅をするようになって以来、何度もお世話になってきた夜行快速である。単に「ムーンライト」を名乗っていた時代から通算8度目となるこのたびは、2002年から03年の年越し列車ともなった。

  クモハ42や可部線など、さまざまな「別れ」があった2002年を締めくくり、そして新年最初に乗ることになったこの車両もまたラストとなる。元々急行用だったものに、リクライニング座席などを装備した車両だったが、春からは特急車両に置き換わることになったのだ。

  終点新潟には5時前の到着。冬の夜明けはまだ遠い。だが、この馴染みの姿とはこれでお別れだ。今一度顔を見て、名残惜しくも立ち去った。

 #036 我が物顔の猫

  磐越西線に乗り、新潟県から福島県に入って最初の駅が徳沢。快速には通過されてしまう、県境の小さな駅だ。

  駅前にのびる狭い道。雪国らしく除雪のための水穴が設けられているが、積雪は多くない。そして道行く人影もない。視界の中で動くのは、一匹の黒猫だけ。正月の朝、猫にとっては変わらぬ朝なのだろうが、駅前の小さな集落はまだ目覚めない。

 #037 磐梯山一望

  会津盆地の北東に、どっかと構える連峰。右端の尖ったのが磐梯山だろう。冬らしいきりっとした青空の下、浮き出た白い稜線が目を引く。

  喜多方から会津若松にかけて、平野部を駆け抜ける電車の車窓の友。盆地のどこから見ても、その存在感は圧倒的だ。

 #038 雪覆う奥地

  雪に埋もれかけた「海抜三七二米」の標柱。列車はここ只見駅で小休止を挟む。駅舎は木の板で囲われ、冬本番に備えている。

  豪雪地帯をゆく只見線。列車の歩みは遅く、只見川に沿って遡りつつ、会津若松から100km弱に三時間をかけてようやくここまでたどり着いた。雪の少ないこの冬、ここにはそれなりに積雪があるが、本来はこんなものではないのだろう。塗装のはげかけた標柱が、その過酷さを物語る。

 #039 奥飛騨へ踏みいる

  猪谷駅。岐阜と富山を結ぶ高山本線の駅であり、ここから神岡鉄道が分かれていた。

  高山線を富山側から乗り進め、ここで高山行きに乗り換えて、さらに雪深き地へと進んでゆく。雪の降りしきるモノクロの風景に、信号の赤色灯がわずかに色を添える。そしてホームには神岡鉄道の車両が待機している。列車の車両としては地味なカラーリングだが、それでもここではアクセントを添える存在だ。「おくひだ2号」と名前を正面に大書きしているのもユニークだ。

  残念ながらこの神岡鉄道には乗る機会がないまま、2006年に廃止された。

 #040 電化を祝す

  この異彩を放つ駅舎は、1990年に大阪で開かれた「花と緑の博覧会」で使われていたのを移築したものらしい。大阪花博にはゴールデンウイークに行って大変な目に遭った経験があるが、この駅舎についての印象は残っていない。

  今、この駅には万国旗が吊されている。この六日前に小浜線は電化され、新型の電車が走るようになった。その祝賀ムードの余韻である。電車向けにホームもかさ上げされて、あかぬけた雰囲気になっている。いかにもローカル然とした以前の小浜線の姿を見ているだけに、不思議な気分になる。

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