2.北海道三都めぐり

 

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 粉雪舞う小樽運河

  12時44分、小樽着。これまでは空港や駅や電車の中ばかりを通ってきたので、ここで初めて文字通りに北海道の土を踏むことになる。

  駅前から海側に向かってまっすぐに下ってゆく道がある。歩道にはこんもりと積雪。恐る恐る足を踏み入れる。・・滑らない。かき氷のようなサクサクの雪でもない。まるで砂のような雪。これがパウダースノーか! 白い道路の上でも車がきちんと走る理由が分かった。いろいろ未知の経験ができそうでわくわくする。

  そんな粉雪を踏みしめながら坂を下ってゆくと、小樽随一のビューポイント、小樽運河が見えてくる。その一角だけ古いれんが製の倉庫群が維持され、まるで映画のセットのよう。雪がふったりやんだりし、時折青空も見えるなか、雪にすっぽり覆われた遊歩道を散策。倉庫の軒には巨大なつららが何本も垂れ下がっていた。

市街地と、れんが倉庫が向き合う小樽運河 

  運河の「裏側」には、倉庫をそのまま利用した飲食店やみやげ物屋などが連なっており、こちらも往来が盛んだ。私の入ったみやげ物屋では、威勢のいい親父さんが一升瓶の酒を振舞っていた。菓子類が安かったので、お土産用にチョコレートを2箱買っておく。

倉庫群は表も裏も観光スポットに 

  さらに、小樽の特産品だというガラス工芸の店を覗いてみた。ふだん、アンティークにべつだん興味があるわけではない自分だが、せっかくだから、ちょっと格好をつけて鑑賞してみる。素人ながら、こういうところで並べられている作品にはやはり見とれてしまうが、お値段も相応なものであった。

  小樽で昼食を・・と考えていたものの、ひとりで入れる店となると限定され、正月とあって開いている店自体が少なく、さりとて小樽まで来てコンビニ食やファストフードというのも気乗りせず、結局小樽で食事はできずじまい。

  しかもホームに上がってから、手袋が片方なくなっていることに気づいた。写真撮影のために出したり入れたりしているうちに落としてしまったらしい。さきの空港の荷札といい、私にとって旅先での落とし物・忘れ物は日常茶飯事なのだが、先の長さを考えれば、手袋紛失は文字通り「痛手」だ。

 早くも日暮れの石狩湾

  小樽 14:55 → 朝里 15:05 [快速「いしかりライナー」 3237M/電・731系]

  小樽を後にし、ロングシートの731系電車で運転される快速「いしかりライナー」で札幌方面へと出発。小樽築港を過ぎると、列車は石狩湾の海岸沿いにさしかかる。どうせなので次の朝里で下車して、この荒海を眺めておくことにする。

  朝里駅を出ると、道路、数件の民家を隔ててすぐ海が広がる。荒波が、白いしぶきをあげて激しく打ち寄せてくる。少し高台に上がると、小樽方面へ、そしてその向こうへ一続きの海岸。それに沿って線路が伸びている。

朝里駅から高台へと上がり、小樽方面を望む 

  線路近くに戻ったところで、快速「エアポート」の電車がやってきた。線路上の雪を勢いよく巻き上げて走り去っていった。あわててシャッターを切ったものの、すでに薄暗くなっていたせいもあり、思い切り手ぶれしてしまった。うまく撮れれば絶好のロケーションだっただけに、これはもったいない。

「エアポート」、豪快に通過 

  朝里 15:29 → 札幌 16:00 [快速「いしかりライナー」 3243M/電・731系]

  朝里から再び下り快速「いしかりライナー」に乗り込む。朝里から次の銭函まで、9km近くにわたって、荒波が打ち寄せる海岸が左手に続くが、新型731系電車はそ知らぬ風で、静かに、なめらかに進んでゆく。

  銭函からは海岸が離れ、べつだん見るものもなくなったので居眠り。目が覚めるともう札幌の手前だった。時刻はまだ16時前なのに、外は早くもほとんど暗くなっていた。高緯度・高経度の時差を実感する。

 長い長い札幌の夜

  札幌 16:18 → すすきの 16:20 [札幌市営地下鉄 普通/電・5000形]

  函館行きの「ミッドナイト」までは実に7時間半あるが、既に暗くなってしまったこの状況では行く場所が限られる。とりあえず地下鉄南北線で2駅、すすきのへと南下。大歓楽街として知られるすすきのだが、もちろんそこに用があるわけではなく、まずは札幌大通公園で開催される「さっぽろホワイトイルミネーション」を見に行くためだ。

  市街を東西に貫く大通公園、西側にはさっぽろテレビ塔がそびえる。雪に覆われた公園に様々なデザインの電飾が立ち、背後のテレビ塔は降る雪にかすんでいる。

  札幌のイルミネーションの歴史は古く、1981年に開始されたという。冬の長い夜に少しでも彩りを、という狙いだったのかもしれない。

イルミネーションに彩られた大通公園 

  ここまで来たからには、テレビ塔にも登っておこう。展望台に上がり、地平から眺めていたイルミネーションを、今度は俯瞰する。先ほどは舞う雪で景色がかすんでいたが、今は小康状態か、くっきり見える。電飾と電飾の間の白い平面を、多くの人影が動いている。ここの売店で、じゃがバターとホットミルクをいただく。北海道らしさを追求した挙げ句、小樽で食事を取り損ねたので、これが実に遅い「昼食」である。

テレビ塔の展望台から大通公園を 

  続いては札幌のシンボルといえる「時計台」だ。もともと北海道の開拓史と密に関わる札幌農学校の演武場だった建物で、今では高層ビルに囲まれているが、そこだけが明治の雰囲気を残している。ライトアップされているが夜闇の中では全貌は望めず、撮った写真もぶれていた。いつか明るいときに再訪したいものだ。

札幌のシンボル、時計台 

  夕食にはやはり札幌ラーメンを食しておきたい。ラーメン店はたくさんあるが、そのうちの一つに入る。店の中はガンガン暖房がかけられている。外はおそらく氷点下なので、冷えた体をこれくらいに暖めなければ追いつかないのだろう。ラーメンの熱気と相まって、「暖かい」を通り越して暑いくらいだ。頼んだみそラーメンは、コクのある甘めの味だった。

  あとはもうひとつの札幌のシンボル、赤煉瓦の北海道庁旧本庁舎だ。時計台と同様、正月早々しっかりライトアップされている。堂々たるその姿に、開拓時代の意気込みが感じられる。

夜闇にたたずむ煉瓦の旧庁舎 

  夜が更けてさらに冷え込み、ラーメンで暖まった体もまた冷えてきた。夜に押さえられそうな見所はこれで回りきったので札幌駅に戻る。土産物屋をのぞいたりして過ごすが、それでも「ミッドナイト」までは4時間もある。寒い駅の中でひたすら待つのもきついので、岩見沢まで列車で往復して時間をつぶすことにする。

  札幌 19:38 → 岩見沢 20:15 [快速「いしかりライナー」 3287M/電・731系]

  今日3度目となる快速「いしかりライナー」。6両編成だが、なぜか編成の中央寄りが混雑し、自分の乗っている先頭車はガラガラだ。夜こうも冷えてくると、乗降の手間やホームの凍結など考えて、端の方は敬遠されるのかも知れない。街灯の光の届く部分だけオレンジ色に照らされた雪景色が、車窓を流れて行く。札幌駅で買った「小樽ビール」を呑む。呑みやすいビールだったがフタで手を切った。小樽での手袋紛失といい、なにがしかケチがつく。

  岩見沢 20:44 → 札幌 21:44 [普通 934D/気・キハ40系]

  岩見沢の駅舎はつい先日火災で焼失してしまったそうで、プレハブの仮駅舎での営業だった。30分ほどを過ごして、このまま札幌へ引き返す。電化区間ではあるが車両はキハ40系。北海道で初めての気動車だ。全国津々浦々で走っているキハ40系だが、北海道のは保温のためか、よそのと比べて側窓が小さい。

  こうして道草を食って札幌に戻ってきたが、それでもまだ1時間近くある。冬の乗り継ぎ旅はどうしても夜が長くなるが、今回はとりわけ時間が経たない。すでに店も皆閉まり、居場所もなく寒々としたコンコースで所在なく過ごす。コインロッカーに放り込んだ荷物を回収し、「ミッドナイト」の入線を待つ。

  23時10分、ようやく函館行きの夜行快速「ミッドナイト」が入線。暖かい客室に入れるだけでもありがたい。

夜行快速ミッドナイト 

  札幌 23:35 → 函館 6:30 [快速「ミッドナイト」 6980D/気・キハ183系]

  長い夜を過ごした札幌についに別れを告げ、函館までは約7時間だ。同じくらいの時間で、関西から急行「きたぐに」なら新潟県まで、夜行快速「ムーンライト九州」だと海を越えて九州まで行くのに、「ミッドナイト」の行程は北海道の西側半分にも及ばない。これが北海道の広大さ。今回の旅行では、そのほんの「さわり」に触れたに過ぎないのだ。

 函館の夜明け

  函館到着は6時30分。夜の訪れが早かったぶん夜明けも早く、雪の白さも相まって、外は既に景色がはっきり見えるほどに明るい。小樽、札幌そして函館と、北海道西部の代表的な3都市を巡ってきたが、ここ函館では1時間半ほどの滞在時間に、駅前の朝市を訪ねてみる。

早朝から賑わう朝市 

  年始2日とあってフルオープンというわけではないようだが、それなりの賑わいを見せる函館朝市。毛ガニやイカなどが描かれた、ちょっとローカル然とした看板がいかにもそれらしい。基本旅先では粗食な私だが、やはりここでは海鮮丼を食べるべき、と意を決して食堂のひとつに入る。

  頼んだのは「うにいくら丼」。約1,800円の、自分としては大奮発の朝食。座敷に独り座るのは何となく場違いな居心地の悪さを覚えるが、うにといくらのとろけるうまみに舌鼓。一口一口大事にいただいた。これだけで、ああ北海道に来たんだという感慨にふける。

  朝市の背後に雪を被った函館山を眺め、これから青森行きの快速「海峡」で北海道を後にすることになる。

 

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