2016年

 鉄道の動き

 新幹線は北海道へ

  3月26日、北海道新幹線新青森〜新函館北斗間が開通。これにより新幹線「はやぶさ」が東京から北海道に直通するようになり、北海道から鹿児島までが(最低2回乗り換える必要がありますが)新幹線でつながりました。東京〜新函館北斗間は最速4時間2分に。車両はJR東日本のE5系に、同タイプのJR北海道H5系が加わりました。

  北海道側の終点は、将来の札幌方面への延伸を見越して函館から函館本線で17.9km離れた新函館北斗(旧渡島大野)となり、函館〜新函館北斗間にはアクセス列車「はこだてライナー」が設定されました。一方で、津軽海峡線の一部を担った江差線五稜郭〜木古内間は第三セクター「道南いさりび鉄道」に移管されました。なお、北海道新幹線の札幌への延伸は2031年の予定。つまりあと15年かかると見込まれています。

  青函トンネルの区間は、新幹線と貨物列車を通すために3線軌条となりました。開業時点で、新幹線の最高速度も140km/hに制限されており、せっかくの新幹線のパフォーマンスを生かし切れないボトルネックとなっていますが、速度アップにはすれ違う貨物列車の風圧対策が課題とされています。貨物列車の通らない時間を設けて一部の便だけでも260km/h運転できないかと検討が進められているようです。

 その陰で…

  一方、同区間を走っていた特急「(スーパー)白鳥」、夜行急行「はまなす」、そして臨時寝台特急「カシオペア」が廃止されました。いずれも私は乗ることのなかった列車ですが、それぞれ鉄道史の節目となる引退でした。

  「白鳥」は、2001年3月まで大坂〜青森間で昼行最長特急として走っていた列車の愛称で、惜しまれつつ廃止になった後、2002年12月の東北新幹線八戸延伸に伴い、八戸〜函館間の特急として復活。JR北海道の785/789系で運転されるものが「スーパー白鳥」、JR東日本の485系使用のものが「白鳥」を名乗っていました。2011年に新幹線が新青森まで延伸した後は新青森〜函館間で運転。次第に舞台を北へ移して活躍してきた「白鳥」も、ついに2度目の廃止に。これは同時に、北海道から九州まで広く活躍を続けてきた国鉄特急形電車のスタンダード485系の、定期特急としての引退でもありました。

  青森〜札幌間で運転されていた夜行急行「はまなす」。毎日運転される列車としては、JRに残る最後の「急行」であり、最後の客車列車でもありました。急行も客車列車も、かつては全国で珍しくも何ともない存在でしたが、JR発足から30年足らずで姿を消すことになりました。「急行」がなく、すべての優等列車が「特急(='特別な'急行)」となった現状は表現上の矛盾をはらんでいますが、JR各社が推し進めてきた効率化・近代化がひとつの完成をみた象徴的な出来事といえるかもしれません。

  上野と北海道を結ぶ寝台列車「北斗星」と「カシオペア」、大阪と北海道を結ぶ「日本海」と「トワイライトエクスプレス」。特に「カシオペア」と「トワイライト」は、長距離列車ならではの移動そのものを楽しむ豪華列車として好評を博してきました。そうした需要があったにもかかわらず、JR側に新幹線とそれらを両立させる意志はなく、車両の老朽化もあって、北海道新幹線開通を前に順次廃止。2015年に「北斗星」と「トワイライトエクスプレス」が廃止になった後は、「カシオペア」が青函トンネルを越える寝台列車として最後まで残りました。これは(毎日ではないものの)定常的に運行される客車寝台列車としても最後の生き残りでした。なお2016年3月の廃止後も「カシオペア」車両は団体ツアー列車として運行されており、北海道にも乗り入れています。

  なお、2015年3月に北海道への運転を終了した「トワイライトエクスプレス」はその後、JR西日本管内でのツアー列車「特別なトワイライトエクスプレス」として運行されていましたが、2016年3月で終了。後継となる「トワイライトエクスプレス瑞風」が2017年春にデビューする予定です。JR東日本も17年5月に「TRAIN_SUITE_四季島」を運行開始します。「カシオペア」「トワイライト」の豪華寝台列車の系譜は、基本的に自社管内(「四季島」は北海道にも乗り入れ)を周回するクルージングトレインへと引き継がれることになります。

運行最終日の「特別なトワイライトエクスプレス」 

 災害との戦い

  2016年は鉄道と災害との戦いも印象深い年でした。なんとか再開にこぎつけた路線もあれば、なかなか先が見えない路線もあります。

  北海道新幹線開通と時を同じくして、三重県では名松線家城〜伊勢奥津間が運転再開。2009年の台風被害で不通となり、JR東海が当初バス転換の意向を示すなど存続が危ぶまれましたが、約6年半を経ての復旧となりました。

  4月14日および16日に、熊本で最大震度7を観測する地震が発生。熊本県を中心に交通網にも大きな影響が出ました。九州新幹線は14日の地震で回送列車が脱線するなどの被害があり、不通に。全線の復旧は4月27日のことでした。その後も被災区間の徐行と間引き運転が続きましたが、7月に本数が元に戻り、2017年3月には地震前の所要時間に戻る予定。

4月16日の「さくら」。しばらく博多折り返しが続いた 

  在来線や他の鉄道も4月中におおかた復旧したものの、豊肥本線および南阿蘇鉄道は阿蘇山系の大規模な災害で復旧の目処が立たず、2016年末現在、豊肥線肥後大津〜阿蘇間、南阿蘇鉄道立野〜中松間が不通となっています。

甚大な被害が出た豊肥本線立野付近(06年8月撮影) 

  8月には北日本に相次いで台風が上陸、特に10号が降らせた大雨により北海道では甚大な被害が発生しました。多くの路線が不通になり、物流にも大きな影響が出たようです。年末時点で根室本線東鹿越〜新得間が復旧していません。

  2011年の東日本大震災以降、津波および原発事故の影響でいまだに不通区間を抱える常磐線ですが、7月に小高〜原ノ町間、12月に相馬〜浜吉田間が復旧。後者においては内陸への線路移設が行われています。これにより常磐線に残る不通区間は竜田〜小高間となっています。

 苦境続く

  少子高齢化や自動車などへの移行による鉄道業界の苦境は深刻度を増しており、ローカル路線の存廃問題は抜き差しならないところまできています。

  特に深刻なのがJR北海道。北海道新幹線開通という明るい話題もあったとはいえ、人口の少なさと気候の厳しさから経営環境は最も厳しく、そこに8月の水害が追い打ちをかけました。利用の極端に少ない駅の廃止を進めているほか、12月に留萌本線留萌〜増毛間を廃止。石勝線夕張支線(新夕張〜夕張間)も廃止の方向で調整がなされています。また、2015年以来不通が続いている日高本線鵡川〜様似間の復旧も断念されたとのことです。

  11月にはJR北海道単独では維持困難な線区が公表されました。その中には支線系統だけでなく、稚内、網走、根室といった主要都市に至る区間も含まれています。前述の根室本線の不通区間も含まれており、果たして復旧の芽があるのかという懸念もあります。

  JR西日本は三江線(三次〜江津間)の2018年3月末での廃止を予定。全長100km以上に及ぶ路線の廃止は、北海道を除けば国鉄末期の特定地方交通線にもなかった規模ですが、三江線の輸送密度はJR発足時の9分の1にまで減少しているとされ、すでに役目を終えたという判断も致し方ないところでしょう。

  地方ローカル線の多くは過疎化の進む地域にあり、先細りは避けられない上、地理的に災害リスクも高く、被災を機に廃止へと動く流れがみられます。北日本の台風被害のように、異常気象により従来あまりなかったような災害が頻発するにつれ、残念ながらこうした事例はさらに増えてゆきそうです。

 

 トップ > 記録庫 > 鉄道と旅の年鑑2016