#001

  中国地方の山間深くに位置する備後落合駅。過疎の山村と呼ぶに抵抗ない場所だ。だが鉄道についていえば、芸備線と木次線が出会う重要な拠点であった。かつては急行「ちどり」が、この駅を経由して広島と松江を結んでいた。ジャンクションであったからこそ、それなりの規模を保っていた駅である。

  それも今や見る影はない。いや、99年当時はまだその残照があった。区間短縮された急行「ちどり」が、ここ備後落合で折り返して広島に向かっていた。木次線の普通列車と接続を図り、一度の乗り換えで一応は山陽と山陰を結べるかたちがとられていた。どれだけの人がそのような使い方をしていたかは分からないが、この顔合わせは、芸備線や木次線が「陰陽連絡線」として機能していた時代の名残をかすかに伝えるものだった。

  その急行も消滅し、備後落合駅は日に数度普通列車が顔を合わせるだけの駅になった。三方へ向かう線路はやせ細る一方で、将来はおぼつかない。

 

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