#009

  先に訪れた佐世保と同じく、長崎も港町の色を強く帯びた街である。その長崎港を望む斜面に位置するのがグラバー園。頂上に至る長いエスカレーターの先にあるのが、「旧三菱第二ドックハウス」。バルコニーに立つと、大型の船が行き交う長崎湾と、その周囲を囲むように連なる山々、そして海岸から山の中腹にかけて広がる町並みが一望できる。

  幕末から明治期にかけ、この国が維新と文明開化に情熱を燃やしていた頃、遠い国から新天地に降り立った実業家たちがいた。彼らが建て、住み着いた邸宅の幾つかが、この園内に移築されている。洋風ではあるが木製で、瓦をふいた和洋折衷の造りに、この日本の地で成功を収めようという彼らの夢と野望と、覚悟のほどがうかがえる。グラバーは武器売買で利を得たというから、彼らの功罪の「功」の部分だけを評価するなら片手落ちになるけれど、少なくとも彼らの存在を抜きには、今ここにある街の姿について語ることはできないだろう。

 

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