#073

  「よっ、ニッポンイチ!」 こんな囃子詞を耳にすることは、今ではそうそうないだろう。だが、名実共に「ニッポンイチ」の称号にふさわしい、それがこの山だ。この国に「名山」と呼ばれる山は数多くても、その王者としての地位を確立しているのは、この富士山をおいてほかにない。

  御殿場線を辿ると、御殿場の手前から姿を見せるが、建物などに阻まれてなかなか見渡すには至らない。そこを辛抱して、郊外に出るとようやく、妨げるものが減ってくる。その均整の取れた形状もさることながら、純白の衣をまとう清らかさも、多くの人を魅了するこの山の魅力だろう。

  この御殿場線は、もともと東海道本線として開通したものだ。メインルートの座を熱海経由の現本線に譲り、今では地方路線のひとつに過ぎないが、富士の懐に抱かれ、その顔を間近に拝見できるという点では、一番贅沢な路線といえる。

 

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