#003

  陸羽西線古口駅を出て積雪の中を少し歩くと、谷に目一杯広がる川に行き当たる。松尾芭蕉が「五月雨を集めてはやし」と詠んだ最上川。しかし今ここに広がるのは、歌人が目にした風景とはかなり異なるはずだ。ほぼモノクロに近い沈黙の世界を映しつつ、水の流れが重たげに動いている。

  日本三大急流に数えられ、新庄盆地から庄内平野へと出て行く古口あたりの渓谷では、川下りの遊覧船も運航されているが、年末とあって動く船の姿は見あたらない。雪に半分埋もれた小舟が河原にたたずんでいる。五月雨の季節は遠い。

 

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