#005

  1999年12月31日。西暦の千の位が1つ増える夜を間近に控え、世間は「ミレニアム」を合い言葉に騒ぎ立てていたが、この山間の集落にそんな雰囲気はみじんもない。あるとすれば、年越しを前にした厳かな静けさ、というところか。

  木曽川に沿い、中山道の宿場町を辿るように谷間を進む中央本線。塩尻から名古屋側の区間は通称「中央西線」とよばれる。塩尻側から峠を越えて、最初に着くのがこの薮原だ。つまり西側から中山道をたどれば、ここで木曽川に別れを告げることになる。写真でいえば、右手の峠が太平洋側と日本海側の分水嶺にあたる。

  しかし「果て」と呼ぶにしては、こうして俯瞰する町並みは規模が大きいように思える。木曽の谷はひたすら深く、険しい。にもかかわらず、それぞれの集落がそれなりに栄えているのは、かつての主要街道の宿場であったことと、林業という産業に恵まれていたことによるのだろう。街道といえば、今でもここは名古屋と長野を結ぶ特急の通り道である。ただ昔と違うのは、ここ薮原には止まらずに素通りされてしまうところだ。

 

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