#030

  もとは京阪神間の競争の一端を担ったという強者も、70年近い歳月を経て、生き残るはただ1両限り。本州の西の果てで余生を過ごす老兵の日課は、朝の7時前に宇部新川を出たのち、雀田〜長門本山間、わずか2.3kmを5往復し、夕方に宇部新川に戻ってくるというものだった。

  宇部新川で出番を待つクモハ42001。真夏の朝日はすでに、そのチョコレート色の車体を照らしている。その存在感は圧倒的で、道のりはわずかだったが、忘れ得ぬインパクトを残すものだった。だが翌年クモハ42は引退。2002年は最後の夏になってしまった。

  私にとって、この電車以上の強い印象を覚えた車両はそれまでになく、その後にもないだろう。

 

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