#034

  広島から川に沿って進んできた可部線は、ここ三段峡駅を終点としていた。正面には山が立ちふさがり、どんづまりに見えるが、かつてはここから延伸し、島根県の浜田に至る計画もあったという。

  可部から先は山間を進む長大ローカル線であり、利用が振るわず廃止対象となった。沿線では反対運動が行われており、「のってよ、かべせん」といったスローガンを掲げた横断幕やのぼりが数多く見受けられた。ただ、笑顔のイラストで「残そう!」と言われても、いまいち緊迫感が伝わってこない。

  そんななか、この駅前に展示されているSLには、「JR可部線の存続を願う!」と、赤い文字で大書きされた横断幕が。時代錯誤なスタイルかもしれないが、無骨なSLならではの訴えのようにも感じられた。しかしもはや趨勢は決しており、翌月に廃止が正式決定、SLの叫びは谷間に虚しく消えた。

  廃線後この駅は取り壊されたが、SLは広島近郊のショッピングモールに引き取られて、展示されているという。

 

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