#062

  鉄道旅独特の楽しみのひとつが、「峠越え」である。延々と坂を登り、トンネルを抜けると、それまでと別の世界が開けてゆく。これまでにこんな高くにまで登ってきたのかと感心するとともに、見渡すパノラマに見とれる。そしてそこから、一気に下界へと下ってゆくのだ。これは、昔の技術のもとに作られた路線ならではであり、山をぶち抜く新幹線や高速道路では、この感動は味わえない。

  肥薩線の「矢岳越え」。熊本側からトンネルを出ると、霧島連山のパノラマが開ける。麓には川内(せんだい)川流域の盆地。「いさぶろう」号は、この絶景スポットをじっくりと見せてくれる。そして右奥にはうっすらと、桜島の姿が。これはあまりお目にかかれないものらしい。南九州を代表する2つの名山に出迎えられ、列車は下りの一途にさしかかる。

 

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