#085

  山越えの途上、勾配のかかった線路の脇にひっそりと、草むすホーム。四方を山に囲まれ、周囲に生活感はない。ここで降りてしまうと、谷底に置き去りにされたような気分になるだろう。

  坪尻駅。スイッチバックの引き上げ線に位置し、通過列車は右側の線路をそのまま駆け抜ける。停車する列車はこの脇道に立ち寄るために、わざわざ2度の折り返しをする格好となる。そもそも、だれが、どんな意図を持ってここに駅を設けたのか。ただ列車の行き違いのためなら、信号場で十分だ。そんな疑問が、ミステリアスな雰囲気を増幅させる。

  そんなことを考えていると、この駅で一人、老人が乗り込んできた。ますます不思議な気分になった。

 

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