寝台電車583系を改造した北陸ローカル用交直流電車
中途半端な構造のままひた走ること20年以上
登場:1985年/運用終了:2011年
在籍:

  記載内容は2011年3月現在。
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 究極のリサイクル?

  国鉄という組織が破綻をきたした80年代、その逼迫した財政を反映して、様々な苦し紛れの方策がみられましたが、その代表例が、余剰となった寝台特急電車のローカル改造でした。

  このころ夜行列車は急速に衰退にさしかかり、とりわけ、扱いが難しく現場からも敬遠されていたという583系電車は、淘汰の対象とされていました。一方、近代化のために地方路線の増発を図ろうにも、相応の車両を用意するには当然コストがかかり、特に東北や九州の交流区間や、交直流の混在する北陸路線はネックとなりました。こうした状況から、583系を普通列車用に改造しようという流れが生まれたのです。

  一見、一石二鳥の策のように思えますが、そもそもただでさえ寝台と座席の兼用という、悪く言えば中途半端な構造であった583系を、畑違いの近郊用に転用しようとは、かなり無謀な試みでした。しかも、当時分割民営化を前にした国鉄に財政的余裕はなく、また昼夜酷使されてきた583系の「余命」を考えると、そうそう費用をかけるわけにもゆかず、改造は最低限にとどまりました。

  こうして登場したのが、715系と419系でした。715系は交流専用となり、東北の仙台近郊や九州の長崎方面に投入。一方419系は交直流両対応のまま北陸に投入されました。419系と715系に、外見上大きな差はありません。

  先頭の「顔」の部分には、もとの583系の顔をそのまま使用したものと、中間車を改造した平たい顔があります。後者はいかにも間に合わせ的で、お世辞にも格好のよいものではありませんが、同種の顔が近年でも、JR西日本の先頭化改造車(115系など)に見られます。

583系スタイルの先頭車。逆三角エンブレムがないため、間の抜けた印象に 

平顔の先頭車(右)。左の475系と比べると、車体断面の大きさが目立つ 

 間に合わせの筈が・・

  東北・九州の715系が全廃されたのは1998年。「つなぎ」の意味合いの強い車両でしたが、結局15年間使われ続けました。しかし、それら兄弟分が役目を終えた後も、北陸の419系はなお働きを続けています。419系は3両編成が基本で、北陸本線(米原〜直江津)の全線と湖西線の一部が運用範囲でした。

  冬場は季節風に吹かれ、雪にまみれる北陸の過酷な環境で走り続けていただけに、老朽化がかなり目立っていました。出入り口は583系時代そのままの折り戸で、幅が狭くてステップがあるため、乗降に手間取るうえ、冬季には手で開け閉めしなければならず(車内からだと内側に折り戸を引っ張る形になり、要領が要る)、特に年配者には厳しそうな構造でした。

車体の高さの割に窓が小さい不自然な構造 

  車内に目を移すと、クロスシートの頭上には上中段ベッドが格納されたままで、元洗面所があった部分には、隙間を埋めるべくロング席が配されるなど、レイアウトが全体的に凸凹していて雑然とした印象を受けます。天井が高いため車内は薄暗く、内装も全体的に黄ばんでいて、くたびれ果てた雰囲気。近年の車両開発においては、バリアフリーや車内外の展望の改善といった「利用者に優しい」環境作りに力点が置かれていますが、419系はその正反対をゆく車両でした。

  取り柄を挙げるとすれば、ありすぎるくらいに余裕のあるボックス席のサイズ(もとベッドのスペースがそのまま1ボックスになっているため)ですが、これも客が増えると混雑を助長する諸刃の剣。

頭上には格納されたベッドが迫り、薄暗い 

洗面所跡に設けられたロングシート 

  北陸の車両更新が立ち後れた一因としては、北陸新幹線延伸との兼ね合いがあったとみられます。新幹線開業に伴って経営分離される見込みの在来線(北陸本線)へ、高価な交直両用車両を投入することに及び腰だったのでしょう。長く使うなら使うで、それなりに手を加えていれば印象も違ったかもしれませんが、そのあたりの要領の悪さが目についてしまいます。

  しかしながら、2006年秋には永原・長浜〜敦賀間の直流化にあわせて、JR西日本の普通列車用交直流電車としては初の新車となる521系が登場。直流区間には223系125系も入るようになり、419系の一部が置き換えられました。2010年春には、521系のエリアは金沢まで北上。そしてついに、419系は2011年3月の改正をもって引退となりました。国鉄末期の悲惨な財政と、JR西日本のローカルへの冷遇ぶりを体現する「間に合わせ構造」のまま、ついに四半世紀に達した419系も、いざ引退となると、そのインパクトが強かったぶん寂しさがあります。

 

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